和解条項の考え方と防御戦略──“誠実”を制度に届けるために

建物明渡請求訴訟において、和解は「敗訴回避の妥協」ではありません。
本稿では、被告が誠実な支払意思を維持しながら理不尽な条項に対抗した実務経験をもとに、
制度的限界の中で「人間の尊厳を守る」ための実践的防御戦略を整理します。


はじめに:和解とは「譲歩」ではなく「回復」である

実務上の和解条項には、「違約金」「即時解除」「公正証書義務」など、弱い立場の当事者に不利な条件が多く見られます。
しかし、制度的制約(住宅扶助・年金支給の時期差)を正確に説明し、誠実な履行意思を示すことができれば、
和解は「制度の穴を人間の言葉で補うプロセス」として機能します。


Ⅰ.和解条項の実務的構造を理解する

               条項類型                                            内容                                           実務上のリスク
① 担保条項(違約金・遅延損害金)支払遅延時に金銭ペナルティを課す社会的弱者への過度な制裁・履行不能を誘発
② 即時解除条項「1回の遅滞で解除」「2回で解除」など行政支給時差による一時的ズレを考慮できない
③ 公正証書義務条項和解後に公正証書を作成させる実質的に「和解を超える強制力」を持つ危険
④ 書面外拘束条項に明記せず口頭で拘束する「書いていない暴力」=心理的圧力の温床

Ⅱ.被告側がとるべき4つの防御戦略

① 行政的制約を「制度証拠」として提示する

住宅扶助や年金支給のタイミング、行政窓口の対応記録を乙号証化し、
「遅滞=不誠実」ではなく「制度的限界」であることを可視化します。
例:乙第○号証「住宅扶助支給確認メモ」
支給は翌月10日、本人に帰責なし。

② 履行意思を「具体的手段」で可視化する

単なる「払う意思」ではなく、
「住宅扶助入金日+年金日+現金支払予定」を明記した支払工程表を提出し、誠実性を証明します。

③ 条項修正交渉では「法的妥当性+人間的合理性」を併記する

「即時解除」を求める原告に対しては、
「2回遅滞で解除」など現実的履行に即した妥協点を提示し、
「履行可能な和解」を形成する目的を明確に伝えます。

④ 「違約金」「公正証書」など非現実的条項は明確に拒否

弱者に対する過剰条項は、公序良俗違反の疑いがあります。
裁判所には「履行不能となる具体的危険性」を説明し、
実質的公平を確保する判断材料を与えることが重要です。


Ⅲ.実務での交渉文例(被告側主張)

被告は、住宅扶助支給および年金入金の周期上、支払が月中旬となる場合があるが、
いずれも履行不能ではなく、行政支給時差による一時的ズレに過ぎない。
これを理由に直ちに解除・強制執行とすることは、信義則上、著しく均衡を欠く。

Ⅳ.裁判所が見る「誠実の証拠」

裁判所は、形式よりも「誠実の可視化」を重視します。
実務上は以下の3点が決定的です:

  1. 書面の整合性:事実→証拠→主張が一貫しているか
  2. 時系列の明示:支払や交渉の流れを図解・表化
  3. 行政対応の実証性:供託不能理由を第三者証拠で補強

被告が「形式を超えて実質を証明」したとき、
裁判所は制度を超えて人間の誠実を評価します。


Ⅴ.和解成立後にすべき3つの行動

  • 和解条項を文書で再確認(口頭条件は削除)
  • 支払工程表を裁判所提出分と一致させる
  • 行政・福祉機関と連携し、生活再建を支援する

和解は「終わり」ではなく「再出発の法的枠組み」です。
再トラブル防止と生活支援を両立させる視点こそ、行政書士・相談員の責務です。


結語:形式を崩さず、人を守る。

和解とは、被告の“誠実”が法に届くための言葉の技術です。
書面は冷たく見えても、そこに「人間の声」を埋め込めるかどうかが実務家の力量です。

形式を崩さず、人を守る。——それが、となりの行政書士の仕事です。

 

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