2025/8/12

“兄弟ゲンカ”で済まなかった相続の話

「兄弟の仲が悪くなるのは、相続のときだよ」
そう聞いたことはありませんか?
私は行政書士として、これまで数多くの相続相談に携わってきました。
実際に、親の相続をきっかけに長年の関係が壊れてしまう例は珍しくありません。
「ただの兄弟ゲンカ」で済めばまだいい方。話し合いがこじれ、訴訟や絶縁に至ることもあります。
 
◆ 親が元気なうちは、誰も想像しない
あるご相談者のケースです(内容は一部加工しています)。
両親が亡くなり、実家の土地と預貯金が相続対象となりました。
兄弟は2人。長男は実家に住み続け、次男は別の地域で家庭を持っていました。
最初は「話し合いで決めよう」と穏やかな雰囲気だったそうです。
しかし、次第にこんなやり取りが増えていきます。
• 長男:「実家は俺が守ってきた。土地は譲れない」
• 次男:「じゃあ、その分現金を多く分けてほしい」
• 長男:「そんなお金はない」
• 次男:「じゃあ売って現金化すればいいだろう」
気づけば、相手の顔も見たくない状態に。
結果、弁護士を入れた調停となり、関係は完全に断絶してしまいました。
 
◆ なぜ、相続は“兄弟ゲンカ”で済まないのか
相続の場面で感情がこじれる理由は、大きく3つあります。
1. 財産の評価が人によって違う
 不動産、株式、現金──同じ価値でも「想い入れ」に差があるため納得しにくい。
2. 貢献度の認識が異なる
 「親の介護をした」「学費を出してもらった」など、兄弟間で感じ方が違う。
3. 話し合いのルールが決まっていない
 口約束やあいまいな説明のまま進めてしまうため、後で「そんな話は聞いていない」となる。
特に、不動産を含む相続は現金化しにくく、分け方を巡って揉めやすいのです。
 
◆ 男性支援者としての視点
私は男性行政書士として、家族の内部事情に立ち入ることに最初は慎重でした。
しかし、数多くの相談を通じて感じるのは、第三者が間に入ることで感情的な衝突を最小限にできるということです。
• 財産の評価を客観的に整理する
• 手続きや必要書類を明確にする
• 遺産分割協議書をきちんと作成する
こうした“事実と手続き”の整理が、感情のもつれを少しずつほぐしていきます。
 
◆ 防ぐ方法は「親が元気なうちに話す」こと
相続トラブルを避ける最も確実な方法は、遺言書の作成と事前の家族会議です。
• 誰に何をどの割合で残すのか
• 実家は売るのか、誰が住むのか
• 葬儀や墓の管理はどうするのか
これらをあらかじめ決め、書面にしておくことで、争いの芽は大幅に減ります。
特に遺言書は、公正証書にしておくと法的効力が強く、無用な争いを防ぎやすくなります。
 
◆ 「まだ早い」と思っている今がチャンス
多くの方は「まだ元気だから大丈夫」と言います。
しかし、相続は突然やってきます。
病気や事故、急な体調の変化で話し合う時間がなくなってしまうこともあります。
もし今、親や家族と相続の話をしていないなら、小さくても一歩を踏み出してほしいと思います。
雑談の延長で「家のこと、どう考えてる?」と聞くことからでも構いません。
 
◆ 最後に
相続は、お金や財産の話であると同時に、家族の関係そのものに影響する出来事です。
兄弟ゲンカで済めばまだいい。しかし、現実はもっと深く、長く、傷を残すこともあります。
だからこそ、専門家に相談することで冷静に整理し、未来の関係を守ることができます。
「相続の話をすること」は、家族を大切にする行動のひとつなのです。