2026/1/8

第1回:公共空間は、誰のものになったのか

公共空間は、誰のものになったのか

──電車・駅・役所で静かに失われるもの

 

朝の通勤電車に乗る。

混雑した車内で、誰かの足が踏まれても謝罪はない。

歩きながらスマートフォンを見つめる人、

車内で身支度を整える人、

自分の動作が周囲に与える影響を気に留めない人たち。

 

それらは違法ではない。

ルール違反でもない。

しかし私は、この空間が本当に「公共空間」と呼べるのか、

立ち止まって考えてしまう。

 

公共空間とは、本来、誰のものなのだろうか。

行政が管理する場所なのか。

利用者が自由に使える場所なのか。

それとも、誰のものでもない場所なのか。

 

私は、公共空間とは

他者が存在することを前提に、

自分の振る舞いをわずかに抑制することで成立してきた空間

だと考えている。

 

かつて公共空間は、

「何をしてもよい場所」ではなかった。

同時に、「厳しく管理される場所」でもなかった。

そこにあったのは、

他者を想像することを前提とした、暗黙の調整だった。

 

ところが今、

公共空間は「個人の生活空間の延長」として扱われ始めている。

 

電車は移動する自室となり、

駅は通過点となり、

役所は用件処理の装置となった。

そこにいる他者は、背景か、あるいはノイズでしかない。

 

この変化は、外国人の増加だけで説明できるものではない。

むしろ、日本人自身が、

公共性を引き受ける感覚を手放しつつある結果ではないだろうか。

 

象徴的なのは、

公共空間における「身体の扱われ方」だ。

 

化粧をすること自体が問題なのではない。

ファッションを楽しむことが否定されるべきでもない。

問題は、

公共空間においても身体を完全に私物化し、

他者の存在や視線を前提条件として引き受けなくなっていること

にある。

 

公共空間には、意図せず交差する視線がある。

その視線は、支配でも攻撃でもなく、

単に「他者が存在している」という事実の表れにすぎない。

 

公共性とは、

視線を消すことではなく、

視線が存在する前提で互いに抑制と配慮を引き受けることによって

成立してきた。

 

ところが今、

身体は自己表現の媒体としてのみ扱われ、

他者の反応や違和感は

「見る側の問題」として切り離される傾向が強まっている。

 

これは女性だけの問題ではない。

威圧的な態度、占拠的な振る舞い、

周囲を顧みない言動。

いずれも同じく、

公共空間における「私」の肥大化を示している。

 

優先席の扱われ方も、その延長線上にある。

優先席は、ルールによって意味を持つ席ではない。

他者を想像できる人間が座ることで、

初めて公共性が保たれる席である。

 

それが「空いているから」「注意されなければ問題ない」

という判断に置き換わったとき、

公共性は制度化され、形だけが残る。

 

制度も同じである。

行政制度は、人が社会的に振る舞うことを前提に設計されている。

説明を聞こうとする姿勢、

理解しようとする意志、

分からなければ尋ねるという態度。

 

しかし現場では、

制度は信頼されるものではなく、

面倒な障害物のように扱われることが増えている。

 

その結果、

説明は簡略化され、

理解は放棄され、

社会は「規制」によってしか秩序を保てなくなる。

 

だが、規制は公共空間を豊かにしない。

それは管理を強めるだけで、

公共性を回復させるものではない。

 

外国人問題が語られる今、

私たちは一度立ち止まる必要がある。

 

問題は、誰かが規制されるべきかどうかではない。

公共性を内面化してきたはずの社会が、

その前提を失ったとき、

誰もが規制対象になっていくという現実

そのものではないか。

 

今日も私は、電車に乗り、駅を歩き、役所へ向かう。

そこに明確な答えはない。

ただ、公共空間の質が、

社会の成熟度を映していることだけは、

確かに感じている。

 

この問いは、まだ終わっていない。

 

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